H24年9月号天衣無縫

H24年9月号天衣無縫

=第182号 平成24年9月号=

甲状腺の疾患について

1、甲状腺とは  甲状腺はのど仏の下に蝶ネクタイのような形をしている重さ15~20gの小さな臓器ですが、ホルモンを内分泌する臓器としては、脳の下垂体や副腎に比べても人の体の中で最大の内分泌臓器です。

甲状腺が分泌するホルモンは甲状腺ホルモン(T3、T4と二種類)に加えカルシトニンという骨の代謝に影響するホルモンがあります。甲状腺ホルモンは生命にとって重要なホルモンで、小児期の心身の成長や、成人になっても心臓、脳や消化器の機能の調節、脂質や糖の代謝の調節など、多様な作用を有しています。

また甲状腺ホルモンは、よう素を素材として作られますから、よう素を含む海藻類を普段から食している日本人にはよう素欠乏はまずおこりえませんが、諸外国ではよう素欠乏に伴う甲状腺の成長障害が報告されています。 ただ今回の福島での原発事故でも問題となった放射性よう素が体内に取りこまれますと、ほとんどすべて甲状腺ホルモンをつくるため甲状腺にとりこまれますので特に小児の甲状腺癌の発症が懸念されます。       

2、甲状腺の疾患

1、甲状腺機能亢進症  甲状腺から過剰な甲状腺ホルモンが分泌される病気でその90%以上が発見者の名前をとってBasedow  (バセドー)病あるいはGraves(グレーブス)病と呼ば れています。この原因は本来自分の体の一部である甲状腺を異物とみなして予防接種と同じしくみで甲状腺に対する抗体ができて、しかもそれが甲状腺を破壊するのではなく甲状腺ホルモンの分泌を促進する通常の免疫反応とは異なった抗体(刺激型TRAb、TSAb)の性質を持 っています。この疾患は男女比は1:4~5で特に20~30才代の女性に多く、人口1000人あたり1~3人で比較的めずらしくありません。症状は、まず甲状腺が腫れる、すなわちのど仏のしたの頚の前部が腫れてきます。また30~40%に眼球が突出してきます。他に甲状腺ホルモンは、殆どあらゆる臓器の活動や代謝を促進するため、体温が上がり暑がりで汗をかきやすく、また食欲も増加しますがエネルギーの消費も増えるためいっこうに体重は増えません。精神も興奮傾向となり不眠やイライラ感が出てきたり心臓は刺激されて脈が速くなり動悸も出て、また中高年では心房細動のような不整脈がおこりやすくなります。便性も軟らかくなり、生理も不順となり、月経がなくなることもあります。血流や血圧も上昇傾向がみられます。診断はこのような一見不定愁訴ともとられかねない症状の場合、甲状腺疾患を念頭においておき、血中の甲状腺ホルモン(T3、T4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定することですぐわかります。またこの疾患は他にもいろいろな自己抗体(TRAb抗体、抗MPO抗体、抗サイログロブリン抗体など)が陽性にでます。

治療は抗甲状腺薬による内服治療と甲状腺の手術(亜全剔といい、大部分切除し4g程度残す)の他に放射線よう素の投与がありますが、男女の別や年齢に応じて適応が異なり、抗甲状腺薬の内服治療が一般的です。少なくとも2~3年は続けて、甲状腺ホルモンの値を正常に保ちますが、甲状腺の腫大がとれにくい場合はさらなる継続が必要で、、また一旦治療を終了としても再発する場合がありますので、治療の中止は慎重にする必要があります。他の原因として甲状腺の良性の腫瘍で甲状腺ホルモンを過剰分泌する場合がありますが、これは腫瘍を摘出して根治可能です。

=以下次号=

平成24年8月 浦田 誓夫